ミラベルと魔法だらけの家

テーマ、構成、人物描写どこをとっても非常によく出来た作品で、なんなら最後ガン泣きしてしまったくらいで、ここ数年のディズニー映画ではベストだった。

魔法一家なのにヒロインだけ魔法が使えない設定からテーマや展開はなんとなく予想がつくものがあった。

一見平凡そうな主人公がピンチを救い、誰だって肯定されるべきで個性は素晴らしい!!みたいな陳腐なメッセージが語られるんだろうという。

半分くらいはその通りだったんだけど、全く意外だったのが能力のある人々にも焦点が当てられていたことだった。

作中では魔法のことを割と直接的にギフトと表現していて、「ギフテッド」たちはギフトを駆使して周囲に積極的に貢献し、周囲もまた大きな信頼を寄せる。

同時に持てる者としての責務は大きな重圧でもあり、期待や信頼を裏切ってしまうことを強く恐れる様が描かれる。

そしてギフトが失われていく事態を通じてそうした役割からの解放が描かれていくのだけど、この役割からの解放こそが本作のメインテーマの一つとなっていた。

平凡であってもなくても肯定されていい、自分らしく生きていいんだと高らかに歌い上げれられていて(ミュージカルだけに)、メリトクラシーに対するアンサーを早速出してきたあたりが非常にディズニーらしいなと思った。

平凡で「なくても」というところが特に好きなところで、僕自身もそうだけど、マイノリティや弱者の視点からのみモノを語りがちなところはあって、でもそうではなくてみんな大事だよねって考え方は目から鱗だったし、そういうの凄くいいなと思った。

その意味では最終的に魔法を取り戻したってのも当然の帰結だったのだろうし、同様にミラベルは本当になんの能力も持ってなかったということになるんだろう。

ミラベルが魔法を使えない設定はストーリー構成的にも先読みできなさにつながる効果的なものだった。

原因不明のまま魔法が失われていき、更にはミラベルが元凶であることが示唆され、でもミラベル自身には力がないことで、この事態をどう解決していくのか、次にどう展開していくのか読めなくて最後まで飽きさせなかった。

こっそり言うとミュージカルを冗長に感じたところもなくはなかったけど。

またミラベルを翳のあるヒロインとして描いたこともストーリーテリング上大きなポイントになっていた。

自分だけが魔法を使えないゆえに、気丈に振る舞っているようで内には強い劣等感、疎外感を抱えていて、序盤から見え隠れする彼女の悲哀に早々に心を捉えられてしまった。

それこそ僕なんかは平凡でコンプレックスの強い人間なので、なおさら卑近な存在に感じてしまったところがある。

先ほど書いた重圧への苦悩でもそうだし、他の主要人物にも陰影は描かれていて、丁寧に築き上げてきた人物像が強い説得力となり、最終的に大きな感動につながったのだろうと思う。

ちなみに泣いたのは終盤のおばあちゃんの回想シーンだったのだけど、あそこは畳み掛けるような緊張の連続の後ということで緩急も見事だった。

ディズニー映画を見るたび脚本作りのテクニックの粋が詰まっていて感心させられる。まああんまりな作品もあるけど。