FUNAN フナン

ポルポト政権下の親子を描いた映画とか予告の時点で見るのも嫌だったのだけど、予想を裏切らずハードな作品だった。

90分ほぼノンストップで恐怖政治下における人間の負の感情や所業がありありと描かれ続け、ライフがゼロのまま延々と殴られ続けていた。

自由を奪われ暴力で抑圧され、ひどい虐待を受けてきた人が本当にいたのだと思うだけでもうもう耐えきれなくなってくる。

強制労働、飢え、暴力による服従、精神をすり減らしていく人々、レイプ、子供への思想教育とまさしく地獄絵図が展開されていくかのように物語は進む。

どのシーケンスが一番ひどいという事はなくて、全てが悲惨なのだ。

それでも一つだけ挙げるとすれば、チョウの母親が飢えと恐怖によって壊れていくくだりが最も心に残った。

もともと抜け目ない女性として描かれていたが、腹が満たされるのであればオンカーの施しでも受けるほど卑屈になり、あまつさえ娘を男に売り渡すほどに尊厳を失っていく。

ついには絶望した娘は自殺し、自身も周囲から見放されたまま衰弱死していくというひたすらに虚しく哀れな最期を迎える。

そんな陰惨な展開の繰り返しのため、途中からずっと胸を締め付けられる思いでスクリーンを見ていた。

これほど心動かされたのは、ある種の極限状態に置かれた人々の心理がいかに真に迫って描かれていたかという証左でもある。

と同時にチョウたちを取り巻く暴力と抑圧が観客に決して息をつかせぬ緊張感をもたらしていて、これを面白いと形容するのは抵抗があるけれども、退屈とは無縁の映画だった。

監督の母親の話が基になっているらしいけど、そうした資料からこれほどの「人間ドラマ」を練り上げたのは見事としか言いようがない。

張り詰めた空気の合間合間で描かれる子どもや動物の無垢な姿はほんのひと時安らぎを与えてくれるのだけど、そこに描かれる動物たちの自由な姿は、実体を持たない何かに束縛された人間との痛烈な対比ともなっていて非常に印象的だった。

ラストシーンも素晴らしかった。

銃声を耳にして打ちひしがれるチョウ。少しの間のあと背中を押すように風が吹き、彼女はソヴァンの手を取って再び歩み出す。

そこに込められた「何があろうが生きていくしかない」という悲壮な想いが伝わってきた時、しばらく感動と虚無が入り混じったような得も言われぬ感情に襲われていた。

考えたくもないけど、この物語よりも更に陰惨過酷な状況に置かれた人だってカンボジアにはいたのだろう。

この平和と自由がいかに幸福なものなのか。それを噛み締めるためにも見なくちゃならない映画だと思った。