フラグタイム

とりあえず声を大にして言いたい。

ラグタイムは百合アニメとしては青い花以来のジャンルを超えた傑作だったと。

前日に同じスタッフが作った『あさがおと加瀬さん。』を見ていたので「フラグタイムもこんな感じかなー」くらいの気持ちで劇場へと足を運んだのだけど、全く対照的な作品だった。

色んな意味で対照的ではあったけど、とりわけ感じたのが作品全体に漂う緊張感で、この緊張感こそがフラグタイムの面白さの一つだと思った。

緊張感の源泉は二つ。村上さんの存在と時間停止能力にある。

村上さんは誰からも好かれるクラスの中心人物という顔を持つ一方、秘密を握った森谷さんに対しては蠱惑的で挑発的な態度を示す。

森谷さんはその二面性に惹かれていくのだけど、かと言ってもう一つの顔が彼女の本性というわけでもなく、彼女は終盤まで本心を晒そうとはしない。

何を考えているのかわからない怖さを持つ村上さんと、そんな彼女との関係を破綻させたくない森谷さん。

森谷さんが距離を縮めようとしても、村上さんは踏み込んでもこないし踏み込ませもしない。

そんな村上さんのはぐらかすかのような態度によって終盤まで続く二人の微妙な距離感は、終始緊張感を孕んでいてまた絶妙でもあった。

一方の時間停止能力は制限時間付きなのでそれ自体が緊張感を漂わせ、そこへ持ってきて村上さんは時間の止まった世界で森谷さんとの背徳行為に繰り返し及ぶのだけど、

スリリングなシーンが繰り返される度に作品は一層の緊張感を帯びていくように思えた。

そうした村上さんの魔力的な引力は、森谷さんを強く引き寄せるにとどまらず、自分の世界に閉じこもりがちだった彼女を外の世界へと引っ張り上げるにまで至る。

前半で徐々に変化していく森谷さんが描かれたところで物語は後半部分に突入していき、スポットが森谷さんから村上さんへとシフトする。

物語後半では森谷さんが村上さんとの距離を縮めようとする過程で、彼女の持つ謎、描かれてこなかった本心がどこにあるのかに迫っていくのだけど、

実はそもそも本心なんて無かったという設定には度肝を抜かれた思いがあった。

誰からも嫌われたくないという強迫観念、それを原動力とした周りの人間の徹底的なプロファイリングはまさに病的なのだけど、

彼女もまた自分をそんな閉塞した世界から救い出してほしい、本当の自分を見つけてほしいと強く願っていた。

そしてついに時間が止まった世界で彼女は森谷さんと出会ったのだ。

村上さんが森谷さんを救い、森谷さんが村上を救う。

お互いがお互いに自分の居場所を見つけたことで、時間停止能力は役目を果たしたかのように失われる。

互いの心の弱さが互いを強く引き寄せ、蜜に絡み合うかのようなこの依存と救いの構造は見事に僕の心に突き刺さってしまったし、文学性すら帯びているように感じた。

そしてこの入り組んだ物語構造こそがまたフラグタイムの持つもう一つの面白さとなっていた。