この世界の片隅に

戦前戦中の人や風俗がとても精緻に描かれた作品だなあと。

いや実際どうだったかはほとんど全く知らないのだけど、丁寧な描写それ自体が強い説得力を持っていた。

ただ、戦中期において地方の庶民は結構のんきにやっていたなんて話は割と耳にするので、実際にこんな感じだったのだろう。

当初庶民にとっての戦争という非日常は日常に同居する「暴力的な何か」でしかなかったのかもしれない。

晴美の放った「空襲飽きた~」なんてセリフがその辺りをよく象徴しているなと。

去年北朝鮮がミサイルを2,3発ほど日本に向けて撃ってきた事は記憶に新しいけど、

2回目くらいだったか、明け方の事だったのでスマホのけたたましい警報に叩き起こされて、恐怖感もあるけど腹立たしさが勝るような心理状態になっていたのを思い出す。

とは言っても暴力は暴力以外の何物でもなく、兄の死に始まって戦争は色々と形を変えながらじんわりじんわりと日常を侵食していく。

そして晴美の死をもって日常は決定的に破壊される。

作品から牧歌的な雰囲気が瞬く間に消えて、あれほど陽気だったすずの心をも侵し始める。

戦争とは幾多の喪失でもあるのだなということを思わされた。

劇中でそうした喪失が描かれるたびに目頭を熱くさせていたのだけど、不思議と最もジンと来るのが空襲シーンだった。

どの空襲シーンがということでもなく、とりわけ爆弾の投下が描かれるたびに胸が詰まる思いがした。

自分自身そこにどんな物語性を感じているのか理解できなかったのだけど、それもまた喪失だったからなのだろう。

空襲により土地が破壊され、風景が変容し、日常が失われていく。

爆弾投下はその恐ろしい予告なのだ。

自分特有の感覚なのだろうけど、その事実を突き付けられることが無性に悲しく、寂しかった。

と暗いことばかり書いてきたけど、思ってた以上にコミカルで楽しい作品でもあった。

その一方で戦争による日常の侵食から生じる不穏さが随所でいい効果を生み出しており、

2時間超という長丁場をほとんどダレずにこの対比によるところが大きいとも思う。

体調が悪くて迷っていたのだけど、わざわざ劇場まで足を運んで見に行ってよかったと思える作品だった。