鹿の王 ユナと約束の旅

詰め込み過ぎという批判やら2時間でまとめるのは難しいという原作者コメントやらを鑑賞前に目にしていたのでこりゃ厳しそうだなーとあんま期待してなかったのだけど、蓋を開けてみたら濃厚なファンタジー群像劇に仕上がっていた。

なんと言っても物語の重層性がすごいなと。

物語構造としてはヴァンとユナ親子の関係性に焦点を当てつつ、他方で疫病の進行や二国間の対立を描いていて、ミクロとマクロ両者が絡み合いながらストーリーが進行していく。大河ドラマに近い作りと言っていいかもしれない。

その中で様々な人物が様々な思惑をもって親子に関わっていき、多種多彩な人間模様、テーマが現れる群像劇としての側面も持っている。

親子愛あり、陰謀あり、旅あり、ミステリーありと多くのテーマが渾然一体となって物語が進行していき、本当に密度の高い作品で最後まで飽きさせなかった。

かと言って難解な話ということもなく、前半はヴァンとユナの関係性に、後半はユナを追いかけることに、一貫して親子に焦点を当てているためストーリーラインは明快なものにもなっていた。

まあ冒頭に書いた批判や上映直後に聞こえた「途中からついていけなくなった」という声を思い出すと、明快は言いすぎなのかもしれないけど。

実際ラストシーンなんかは解釈しきれなかったところがある。

作中でヴァンたちは直接的に関わりを持たないけども、民族対立は根底をなすテーマとなっていたので、ラストにピュイ、つまり「鹿の王」が犬たちを率いることは融和の表れとなっていたのかな。

ストーリーの面白さは登場人物一人一人に思想が感じられるような優れた人物造形も要因だったが、その点は丁寧な芝居に支えられた部分も大きい。

ザムド以来の宮地昌幸作品(と言っていいのかはわからないけど)だったけど改めていい演出するなと思った。

まあラストシーンでユナがヴァンを発見した時の表情は狂気じみてたけど。

演出で言うとツウォル人の入れ墨はもともとの設定だったんだろうか。

入れ墨の存在はストーリー理解に大いに貢献していて、これが現場のアイデアだったらめっちゃナイスだったと思う。

気づいてないだけでもっと色んなテーマが込められた作品だろうし、原作とあわせてもっと深堀りしてみたい作品になった。

というかせめて精霊の守り人やエリンを見とけばもうちょっと作品を理解できたと思うと悔しさも残る。