「マルセル 靴をはいた小さな貝」 感想

  • 擬人化された動物が人間社会にコンタクトすることで社会のなんやかんやを浮き彫りにしていく、よくあるタイプの寓話だと思っていたのだけど、この作品はそれをストップモーションと実写の組み合わせによってモキュメンタリーとして描いてるところが新鮮だった。
  • ただ、物語として面白いかと言うと微妙なところ。もともとyoutubeに公開された短編群をまとめて長編化した作品であり、またモキュメンタリーというジャンルも手伝って、あまりドラマ性が強くないのだ。その中でも一応様々に展開はあってつまらなくはないのだけど、トレーラーを見て抱く期待ほどには決して盛り上がらない。
  • 脚本で気になった点としてはマルセルに対する社会の反応もまた然りで、人間のように振る舞うおもしろ生物が見つかって起きるトラブルが、インフルエンサーがマルセル宅に乗り込んできてただ平穏を乱すだけというのはちょっと考えにくく、それこそ科学者やらなんやらが出張ってくるテンプレ展開があってもよかったはず。しかしマルセルを取り巻く人々は驚くほど冷静に対応し、インフルエンサー来襲を除けば特に事件は起きないわけだけど、逆説的に言えばテンプレ展開をしなかったことで説得力を欠いたとさえ言える(そしてトレーラーを見て抱いた期待というのはまさにそういうサスペンス要素でもあった) 作り手としては当然そういう展開も考えたんだろうけどコンセプトから外れるから却下したんだろうな。けどそれはモキュメンタリーとしてはどうだったのか?
  • アメリカが舞台のモキュメンタリーのためアメリカの文化や風俗に強く立脚した内容にもなっており、実在の人物名や番組名など固有名詞がバンバン出てくるのだけど、どうしても馴染みがないからそうした固有名詞が持つ説得力やユーモアがいまいち伝わってこないという問題もあった。
  • と否定気味のレビューになってしまったけど、冒頭述べたようにストップモーションを通じたモキュメンタリーというアプローチ自体はとても新鮮で、映像としては面白かった。あとはマルセルのキャラが気に入るかどうかでも評価は分かれそう。僕はまあ普通だったかな。