世界征服〜謀略のズヴィズダー〜 #3「煙に巻いてさりぬ」

岡村天斎らしさ

岡村天斎ファンとしては特に彼に求めてることに、やはり「尖り」みたいなものがある。
その点世界征服に関して言えばここまでの印象は面白いながらもどことなく物足りなさがあった。
確かに変わった作品なのだが、内容的にはそこまでひねりないというか、口当たりが良すぎるというか。
だからこそこのまま最後まで行くわけがなく、あっと驚く仕掛けがどこかで用意されてるのではないかという期待感も同時に抱いていたのだが、3話にしてようやく、そして不意打ち的にそれはやって来た。
2話までの流れからこんな話をやることは全く想定していなかったのでかなり驚いたが、そうしたインパクトは当然狙っていたのだろう。
と同時にこの作品にはここまでの振れ幅があるということを示唆する目的もあったように見えた。
それにしたってこのギャップの大きさには正直イジワルさすら感じたが、これもまた「らしさ」か。

ブラックコメディ

それでどんな話だったのかというと、「嫌煙」がテーマとなっていた。
嫌煙である。
これまでは征服だ晩飯を基にしたコメディだ、実にアニメアニメしていたのに、なんだろうか。このひどくセンシティブで現実感溢れるテーマは。
しかも衣ばかりか、中身までも攻撃的で毒気の強いタッチに変化し、豹変という言葉がまさにふさわしいほど別物になっていた。
喫煙問題というだけでも議論に火が付いて煙ってきそうなものだが、実際のところ話題になった、というより賛否両論が巻き起こることになった。
それもそのはずで、大の嫌煙家であるケイトが街中の喫煙者たちを排斥・迫害していくというかなり際どい筋立てだったからだ。
更に嫌煙家だという岡村天斎自らの思い(悪意?)を強く込めて、喫煙者たちを徹底的に攻撃する偏重的な描写も目立っていた。(ちなみに今回も脚本演出は岡村天斎)
しかしでは喫煙者攻撃を主目的に作った話なのかというと、全くそうではないのだ。
根っこにあるのはユーモアで、話の中で愛煙家も嫌煙家もともに戯画的に描いており、第一に笑える話を追求していたことは明瞭だったからだ。
要するに今回はブラックコメディだったのだが、そうは受け取らずネガティブな反応をした人は少なくなく、例えば岡村天斎はアニメを利用して自己主張したいだけなんて意見もあった。
ただ、これまでは割とゆるい感じで無害そうな作風だったのに、いきなりブラックコメディなんかやられたら拒否反応を起こす人がいてもそれは致し方ないとも思う。
よく日常系のアニメでシリアスやるななんて意見が出てくるがそれに近いだろう。
とは言え冒頭でもちらっと述べたように、ある程度の反響、もとい反発は見越していたはずだ。
普通に考えてテレビアニメで、こんなテーマで、しかもこんな攻撃的な表現をしようと思うなら当たり前とさえ言えるだろう。
それでもここまでの反発に遭うことは誤算だったかもしれない。
すると失敗だったのかというと、決してそうは思わない。(商業的にはどうかわからないが……)
指摘される陰湿さや不快さというのは感じられなかったし、何よりもただひたすらに面白かったからだ。
ファンとしてはこういう岡村天斎が見たかったわけで、むしろよくぞここまでやってくれたものだと思う。
ちなみに、小森高博のツイート(削除済み)によると、嫌煙をテーマにした話というのは以前から作りたかったそうだ。
言われてみれば、直接的ではないがDTBにおいても喫煙は好意的には描かれておらず、むしろ喫煙に苦しめられる人々が描かれていた。
それでもタバコが様になる男というのも同時に描かれてきており、ダンディズムのシンボルと見ていることも伺え、意外とタバコにはアンビバレントな感情を持ち合わせていたりもするのかもしれない。

やり過ぎる面白さ

繰り返すようだが今回はとにかく攻撃的だった。
まずはこのキャプチャを見てもらおう。


これがあの星宮ケイトちゃんである。
ちなみにこちらが在りし日の星宮ケイトちゃんとなる。

更にひとつめの画像のシーンにおけるタバコの許可を求めた男性キャラに対する台詞が切れまくっていたので、それも引用してみたい。

いいわけねえだろうがこの糞野郎。
てめえは飯を食ってる横でウンコの臭いがしたらどう思う?
いやウンコの臭いはまだ体に害はない
お前の一時の気休めのために毒ガスを吸わされるここの全ての人間は寿命を縮められるんだ。
いいか。周りをよく見てみろ!
吸ってない人間は吸ってる人間を許してるわけじゃあねえ。
吸ってない全ての人間がお前を呪い、お前の死を願っていることを覚えておけ!
失せろ!お前の命がまだあることを運命の女神に感謝してな!

と確かにこれではまあ、ここまでニコニコ顔で視聴していた変態紳士の諸君がご立腹するのも当然というほどに全編毒気に満ち満ちていた。
やり過ぎとさえ言えるのだが、しかしこのやり過ぎこそが今回の笑いの源泉に他ならなかった。
今挙げたケイトのキャラの変化は特にその象徴と言え、あんなにも愛らしい姿を見せてきたケイトが罵詈雑言を吐き、暴力的に振る舞う姿はかつての面影もなくまさに行き過ぎた変化だが、そのギャップがたまらなく面白い。
ストーリーにしてもケイトを筆頭に嫌煙家が徒党を組み、町の喫煙者を撲滅・排斥し、果てには追い詰められた喫煙者と最終決戦を迎えるというハチャメチャなものなのだが、だからこそシリアスには受け取れず、笑いになる。
喫煙者を追い立てていく過程は弾圧行為さながらの「喫煙者狩り」であり、嫌煙家を弾圧者に、喫煙者をレジスタンスにそれぞれ見立てているのも面白かった。
前者は一部が急進化して「喫煙特捜隊」を結成したり、下層市民として認めてやるからと降伏を迫ったり、

一方で後者は身を寄せ合ったり、地下に逃げ込んだりしながらもタバコという「信仰」を頑なに手放そうとしない姿には大いに笑わせてもらった。
ところで喫煙者たちは最後ある場所に逃げこむのだが、そこがパチンコ屋で、しかも店の名前が「最後の楽園」というのはこれがまた見事なセンスだと思う。

喫煙者・喫煙行為に投げかけられる台詞もまた毒が効きすぎていて、周りの人間誰もが嫌な顔をしながら、「別の星から来た」「人の言葉が通じない」「あれはもはや人ではない」「説得とはあくまで人の心にしか届かない」など人外扱いされていて、過剰なまでに敵意が向けられる。
そして最後にはホワイトライトが登場し悪の心を焼き尽くす兵器をズヴィズダーめがけて投下して周辺の喫煙者たちも巻き添えを食らうのだが「人の心を失った」喫煙者たちには効果がなく、ゾンビのように尚生き延びる。
このように内容的にはギャグでしかなく、作り手としても第三者的立場である明日汰を通してこんなんありえないでしょだから軽く見てねというメッセージを発し続けていた。
もちろん喫煙者に対する岡村天斎の思いが込められていることもまた事実ではある。
それでもそれを笑いに変えることで、説教臭くない形で、後腐れない形でメッセージを発することができていて、うまくやったものだ。
と個人的には思っていたのだが、実際にはそこまでうまく行かなかったようだ。

ケイトは西ウド川市民に居場所を与えたか?

嫌煙ネタに隠れがちではあったが、謎や先行きに対する示唆にも富んでいたので、これまでの予想なんかとも絡めて検証してみたい。
今回はヤスにフォーカスされていた側面もあり、そこを通して見えたのがケイトとの関係性だ。
なぜ彼女の周りにメンバーが集ってきたのかはここまでで大きな謎の一つだった。
ほんの少女に過ぎないケイトに対して、なぜメンバー一人一人が堅く忠誠を誓っている様子があるのだろうかと。
まず吾郎とヤスが元ヤクザで師弟関係のようなものにあったことがわかった。
つまり吾郎がヤスを一緒に引き込んだというところなのだろう。
更にその動機に関しても吾郎の場合、これが全てかは分からないが恐怖によってということが示された。
ヤスに関しては組織から抜けてみたり、世界征服を荒唐無稽だと思っていたりとそれほど忠誠心は高くないが、吾郎の手前と考えることが出来る。
一方で同じ鹿羽という姓を持つことから逸花については吾郎の娘なのだろうが、彼女はケイトに心底陶酔しているようで、純粋にそれだけなのかもしれない。
解答としてはそれぞれ納得の行くものだが、征服は人々に居場所を与えることという予想からは遠ざかったようにも思える。
今回の話の中でも、第1話で自衛隊相手に融和的な態度を取った時とは打って変わって、おぞましい兵器なども持ち出してケイトは本気で喫煙者たちを抹殺しようとしていたように見えた。

また、暴徒化した市民も発生し、直接的な描写は無かったが喫煙者に対するリンチ行為も行われていた。
つまり明らかに暴力的かつ強圧的な手段に訴えていて、この辺りブレているのではないかとも思ったのだが、タバコだけは本当に嫌いで、単に喫煙者は例外と考えれば一応筋は通る。
何も全人類を救うと言っているわけではないし、そもそもズヴィズダーは悪の組織なわけで。
より好意的に見れば、(中華料理屋を除けば)ケイト自身は一切の暴力を振るっていないし、結局ラストでヤスに温情をかけていたり、喫煙者に対して喫煙をやめさせる以上の意思は無かったとも取れる。
また、タバコそのものも憎んでいたにせよ、この一件自体が征服のための方便だったと解釈することも可能だ。
つまり喫煙者の撲滅に乗じて征服に乗り出すというのが今回の「謀略」というわけで、実際ラストで西ウド川市の3割が軍門に下ったとされている。
更に拡大解釈すると、今回その3割の人々に居場所を与えたとすることも出来なくもない。
居場所を与えることが征服だという予想、辛うじて生きてるようなもう死んでるような。さてどうなんだろうか。
ヤス回に続き、次回はナターシャ回のようだが、どこまで謎に迫るか。
ナターシャに関しても忠誠に厚いようだし、何より右腕的なポジションということで様々に通じている可能性が高く、今回と同じかそれ以上の示唆を期待できるかもしれない。
考えるまでもないことだが、前回は明日汰回と言えて、順番にスポットが当たっていってるようだ。

おまけ

前回貼り忘れたのだが、逸花がウェアラブルバイスのようなものでARを出していたシーンを反転させたもの。

付記

放送が2月初めだったのでそれから数えるともう5ヶ月近く経っていることになる。
実はこれ、途中まで書きかけていたのだが、その折猫がいなくなるという事件があり、感想を書くどころかアニメを見られるような状態ではなくなってしまっていた。
そのまま本放送が終わり、3ヶ月4ヶ月と過ぎ、ついには夏アニメすら始まろうとしている今、本作のイベントが近いこともありようやく手を付け始めた。
しかしイベントまで既に20日を切っているため、感想を書くのに1週間かけていたここまでの分と比べると、考察から文章から全体的にかなり雑になるのではないかと思う。
3話までの細かい部分も忘れているだろうから尚更そうなるかもしれない。
というか現実的に言って、おそらく途中から感想を書ききれなくなって、そのまま総括みたいなパターンになるんじゃないかと思っている。
今回についても久野美咲があまりに素晴らしかったので、独立させて何か書くつもりだったのだが、メモを読んでも書きたかったことがさっぱり思い出せずやむなく断念した。