追悼文

一昨日くらいの夜にビッグサイズなゴキブリが出たんだけど、まあ時節的に既にかなり弱っていて、でも卵とか産みつけられて大往生されても困るので、後処理嫌だなあと思いながらも、悠々と立て掛けタイプの木製CDラックのてっぺんに鎮座しているところへノズルの先から毒ガスを噴射した。
翅を広げてテイクオフ。カミカゼ特攻。という展開は困るので、奴の脇から結構な距離を開けての奇襲をかけたもの、やや飛距離が足りず。やばい。どうなるかとも焦ったけど、まあ元々の弱りようからか、若干の量でも致命的だったらしく、なお必死で生きようと近くのカーテンを駆け上がって姿が見えなくなった後、
「ボト」
と生き絶える音がした。
いや果たしてあれは撃墜した音だったのか、恐る恐るカーテンを引く。バッと。いない。やっぱり死んだのかと何となしに桟に目を向けると仰向けざまに闇に溶け込む姿があった。僕は網戸を開けてノズルの先でそれを外に放り出した。
部屋もほとんど汚れずティッシュでつまんで感触を手に伝えるも必要ない、まさに首尾よい戦いとして終わった。だがあれは戦闘だったのか。そんな正当性はあったのか。惨殺ではないか。なぜ殺した。ゴキブリが何をした。かゆみでも与えたか?毒でも喰らわせたか?ただ生きていた。ただゾッとする姿形で。ただ不潔さを滲み出しながら。
その日何か夢を見た気がする。