TAAF2022で上映された障害をテーマにした短編アニメ4本

TAAF2022の短編アニメーション部門で障害をテーマとした作品が4本上映されどれも面白かったので感想ついでに紹介でもしてみたい。と言っても1ヶ月以上経っちゃってるので細かい筋までは思い出せないのだけど。

ちなみにこれらの作品がどこで見られるのかというと、インディーアニメなので残念ながら基本的にはどこにも流通してないんじゃないかと思う。のに紹介するという。

ネタバレも多分に含みます。

靴の中の小石

監督:エリック・モンショー Eric Montchaud

自閉症をテーマにしたストップモーションアニメ。

ある日ウサギたちのクラスに1匹のカエルが加わるところから物語は始まる。

これはカエルが自閉的傾向にあることの寓意なのだけど今思うと性別を特定しない目的もあったのかもしれない。

自分の世界にすぐ没頭してしまうカエルは周囲とうまくコミュニケーションが取れずすぐに腫れ物扱いとなるものの、ひとりのウサギが彼に歩み寄り仲良くなっていく。

飛び石部分だけ踏んで歩かないと死んじゃうみたいなごっこ遊びの経験は多くの人に共通することだと思うけど、このイマジネーションと現実の境界が子供目線で緻密に描かれているのがとても印象的だった。

カエルの場合はその境界が曖昧ゆえに時として現れる恐怖のイメージによってパニックに陥ってしまうこともあるのだけど、そこにウサギという手を差し伸べてくれる存在ができる。

自閉症の子供に友だちができること、それだけを描いた物語なのだけど救いを感じられる作品でもあった。

たいせつなこと

監督:ポール・マス Paul Mas

こちらも自閉症を描いたストップモーションアニメで、自閉症の少年エミールが普通学級に加わり周囲とコミュニケーションが取れず腫れ物扱いになるという導入でその点も共通している。

一方本作は同じクラスのジュリーという女の子の視点から語られていき、彼女も軽度のAS傾向が見受けられることでクラスに馴染めておらず、そこにエミールが転校してくることになる。

不思議と非定型同士は気が合うもので二人は徐々に仲良くなっていくのだけど、物語終盤プールの授業で事件が起きる。

水泳着が見当たらず更衣室で裸のままパニックになっていたエミールをジュリーが見つける。

ジュリーも水泳の授業が嫌だからこのままここに隠れていようと一緒にいたところを見つかり大問題になってしまう。

二人の親も呼び出され面談になり、教師がジュリーに性行為があったのかと暗に尋ね、更にエミールが好きなのかと尋ねる。

それに対してジュリーはエミールのことが嫌いだと返答し、エミールが別の学校へと転校していくことになって物語は救いなく終わる(エミールには何もされなかったと答えてたと思うんだけどいちばん大事なところを忘れてしまった……)

この前段としてジュリーがエミールとお絵描きをしていた際に、周囲から絵がうまいと褒められて彼女のクラス内でのポジションが変化する描写がある。

だから彼女は身を守るためにエミールを見捨てる選択をしたのだ。

『靴の中の小石』が非定型発達を個性としてポジティブに描いた作品だったなら、対照的に本作は自閉症児を取り巻くシビアな現実をまざまざと描き出していた。

同じ腫れ物扱いでもこちらは周囲の生徒の差別的な振る舞いやエミールに困惑している大人たちが描かれているし、ジュリーの「裏切り」にしても想像力に乏しいゆえの子供の残酷さを鋭く表現していて、「こんなこと世界中で毎日起きているんだろうな……」と絶望させられるような強い説得力があった。

エミールの相貌も自閉症児特有の感じが出ていて、表情の付け方や造形の巧みさもあるんだろうけど、クレイアニメーションだからこそ出せた「感じ」でもあるように思った。

穏やかな狂気

監督:マリン・ラクロット Marine Laclotte

障害者施設の障害者たちの姿を描いたドキュメンタリーアニメ。ドローイングのような感じで様々な人物が非連続的に描かれる。声には取材で録音した障害者たちの言葉を当てていて言わばプレスコ

ほとんどの人にとっては隔絶された空間であるからそこに光を当てていること自体新鮮だったし、そこで束縛なく生きる彼らの幸福さが躍動感のある動きを通してとてもよく伝わってきて温かい気持ちになれる作品だった。

一方で職員の言葉を通じて障害者たちの困難も描いていて、踏み込んで言うと彼らの生きる意義を問うてたようにも見えた。

人物は醜さは醜さのまま残しながら愛嬌たっぷりにも描かれていて、過度に美化せず、しかしリアルすぎずのデフォルメ具合が面白かった。

またアニメーションならではの抽象的な表現によって障害者たちの内面や発露を巧みに表現していたように思う。

予期せぬ出来事

監督:

ロリーヌ・バイユ、ガブリエル・ジェラール、リーズ・ルジェ、クロエ・マンジュ、クレア・サン
Laurine Baille, Gabriel Gérard, Lise Légier, Chloé Maingé, Claire Sun

(ゴブランズの卒業制作)

こちらはOCDがテーマの作品。個人的には最初の2本も刺さったけど現在進行形でOCDに悩む身としてはこっちのがぶっ刺さるものがあった。

OCDであるアンナはインテリアをすべて対称的に配置する強迫観念に取りつかれていて、何もかも秩序だっていないと落ち着かず、それゆえ泊まりにやってきてる妹の一挙手一投足ががさつな感じがしてとても耐えられない。

そんな妹がコンクールのため出かけて行くのだけど楽器のパーツを忘れてしまう。

彼女との連絡が一向につかないため意を決してアンナは妹の元へと赴くのだけど、外界の秩序だってない全てが彼女にとっては恐怖でありホールまでの道のりは地獄のようなものになる……

というあらすじなのだけど、その中で描かれるインテリアもそうだし、施錠の執拗な確認、通る道の決まりごと。すべてが痛いほど伝わってくる内容となっていてOCDのスタッフがリーダーシップを取って作り上げた作品なのかなと思った。

そして僕自身OCDゆえに大切なものを失った人間なので、愛ゆえに強迫観念を克服しようとする姿はいやがおうにも強いカタルシスを覚えてしまった。

ただ強迫観念を通じてパニックを起こすことはないので強迫観念を悪魔として描く部分に関してはわかるけどわからない感じだった。

多くのシーンで左右対称の構図にすることでアンナの内面を描いていたのも面白かった。

というか左右対称を極めたインテリアいいなとちょっと思ってしまった。自分の部屋もそんな感じにしてみようかしら。OCD的には良くないんだけど。